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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)3601号 判決

原告

日酵化学株式会社

右代表者代表取締役

天満照芳

右訴訟代理人弁護士

吉田大地

被告

スポーツ振興株式会社

右代表者代表取締役

木下俊雄

右訴訟代理人弁護士

三浦和博

参加人

すみれ・ゴルフサービス株式会社

右代表者代表取締役

川崎富雄

右訴訟代理人弁護士

竹村仁

主文

一  原告と被告との間において、訴外光造博が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

二  参加人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告及び参加人の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一原告

主文同旨

二参加人

原告、被告及び参加人の間において、参加人が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

第二事案の概要

一事案の要旨

本件は、訴外人のゴルフ会員権の仮差押をした原告が、右会員権は仮差押決定の送達前に参加人に譲渡されていると主張するゴルフ場経営会社である被告に対し、訴外人が会員権を有することの確認を求めたのに対し、参加人が当事者参加し、右会員権は参加人が譲渡を受けたものであり、ゴルフ会員権の譲渡は、ゴルフ場経営会社の承認を受けることによって、会員権に表象された権利義務が一体として譲受人に確定的に移転するから、対抗関係に立たないなどと主張して、原告及び被告に対し、参加人が会員権を有することの確認を求めた事案である。

二争いのない事実等

1  被告は、ゴルフ場並びにゴルフ倶楽部の経営・管理等を営業目的とする株式会社であり、スポーツ振興カントリー倶楽部(兵庫県川西市山の原字下恋里一二所在、以下「本件倶楽部」という)を経営している。

2  訴外光造博(以下「光造」という)は、昭和四〇年ころ、被告に三〇万円を預託して、本件倶楽部の会員となった者であるが、右預託金は、右ゴルフ場が三六ホールに増設された時点で二〇万円を追加され、現在五〇万円となっている(会員権の内容は別紙会員権目録記載のとおりである。以下「本件会員権」という)(〈書証番号略〉、証人西田)。

3  原告は、光造に対し債権を有していたところ、以前、光造から本件会員権を所有していたことを聞いていたことから、光造やゴルフ場経営会社である被告に確認することもなく、光造がいまだ本件会員権を有しているものと推測して、平成二年五月一七日、本件会員権の仮差押決定(平成二年(ヨ)第一一六四号、請求債権一八八八万七五〇〇円)を得(〈書証番号略〉)、右決定は同月一八日、被告に送達された(〈書証番号略〉、原告代表者)。

4  原告は、光造に対し、平成二年五月二一日、不当利得返還請求事件の本案訴訟(大阪地方裁判所平成二年(ワ)第三六七七号)を提起し、平成三年五月二三日、光造が原告の請求(元金一八八八万一五〇〇円とこれに対する平成二年五月二六日から支払ずみまで年六分の割合による金員)を認諾した(〈書証番号略〉)。

5  原告は、平成三年六月二六日、執行力ある右認諾調書正本に基づき(請求債権合計二〇一〇万七五〇四円)、本件会員権の差押命令を得た(〈書証番号略〉)。

6  本件会員権は、前記仮差押決定が被告に送達される以前に、次のとおり、光造から順次譲渡された。右譲渡にあたっては、光造名義の会員証、印鑑証明書、名義書換申請委任状等必要書類一式が順次交付されている(〈書証番号略〉)。

(一) 平成二年三月一六日 光造から大西猶之(二三五〇万円)(〈書証番号略〉)

(二) 平成二年三月二〇日 大西猶之から株式会社トガ会員権事務所(二五〇〇万円)(〈書証番号略〉)

(三) 平成二年三月二〇日 株式会社トガ会員権事務所から有限会社アルファー(二六〇〇万円)(〈書証番号略〉)

(四) 平成二年三月二〇日 有限会社アルファーから株式会社セントラルプラザ(二七〇〇万円)(〈書証番号略〉)

(五) 平成二年三月二八日 株式会社セントラルプラザから参加人(二八〇〇万円)(〈書証番号略〉)

7  本件倶楽部の会則(〈書証番号略〉。以下「会則」という)によれば、会員の資格は、理事会の承認を得て、譲渡することができ、名義書換料については被告会社において別に定めることとされている(第五条)。また、会員権を譲渡した場合、本件倶楽部の会員権は自然消滅するものとされている(第六条)。なお、理事会は、代表理事(会社社長が当たるものとされている)、理事長、常任理事、理事によって構成される(第一一条、第一二条、第一六条)。

三争点

本件の中心的争点は、光造から中間者を経て参加人に譲渡された本件会員権の譲渡が、仮差押権者である原告に対抗できるか否かであり、この点に関する当事者の主張の要旨は次のとおりである。

1  参加人及び被告の主張

(一) 本件会員権譲渡の承認

(1) 本件会員権譲渡の経過

参加人は、被告の関連会社であり、被告と業務上の緊密な協力関係を持っており、本件会員権は、本件倶楽部の会員権の適正価格の維持等の目的で、被告と協議のうえ、他の六口の会員権とともに合計一億九五〇〇万円で購入したものであり、その資金はすべて被告から融資を受けたものである。

したがって、本件会員権の取得については、事前に被告の承認を受けており、かつ、譲受当日の平成二年三月二八日にも、購入の事実を被告に報告し、会員証、名義書換承認申請書等の名義書換に必要な書類を被告に提出し、被告から参加人が本件会員権を取得したことにつき、同日、本件倶楽部の理事会の代表理事をも兼ねている被告の代表取締役の承認を受けている。

なお、名義書換料は、参加人と被告との関係から免除されている。

(2) 理事会の承認に代わる代表取締役の承認の有効性

本件倶楽部の会則では、倶楽部に入会を希望する者は、理事会の承認を得なければならないこととされているが、前記のような目的で購入した場合は、理事会の承認は要せず、代表理事(代表取締役)に承認権限を一任する取扱が慣行的に行われている。仮に右慣行が認められないとしても、本件倶楽部は預託金会員制倶楽部であり、社団の実態を持たず、倶楽部固有の財産もなく、理事会は、ゴルフの月例会等の協議運営の権限を持つだけであり、理事会の承認は、不適格者を排除するために過ぎないから、理事会の承認がなくとも、ゴルフ場経営会社である被告の承認があれば足りると解すべきである。

(3) 会員証の名義変更

通常、会員権が譲渡された場合、会員証の裏面に譲受人の氏名が記載されることが多く、本件会員証にも同様の記載欄があるが、ゴルフ倶楽部の会員証は有価証券ではなく、単にゴルフ場経営会社が譲受人を会員として承認したことを書面上明らかにするという意義しか有しないから、会員証の名義変更の有無は、ゴルフ場経営会社又は理事会の承認の有無と直接関係するものではない。本件の場合、参加人が会員権の売買を業としているため、将来本件会員権を第三者に転売等することを考慮して、会員証の名義変更はしていないが、被告の承認を否定する理由となるものではない。

(4) 名義書換料の支払

また、通常、ゴルフ倶楽部の会員となるには、承認を得た後に所定の名義書換料を支払うことが必要とされており、その支払があってはじめて譲受人は正式の会員たる地位を取得するものであるが、ゴルフ場経営会社ないしゴルフ倶楽部の理事会は、その支払を免除することも当然許されるところ、参加人の場合は、その支払が免除されているから、参加人は前記承認と同時に会員たる地位を取得した。

(5) 以上の次第であるから、参加人は、本件会員権の取得について、平成二年三月二八日に被告の承認を得ており、これによって参加人が本件会員権を確定的に取得したものというべきである。

(二) 名義書換の終了と対抗問題

ゴルフ会員権は、ゴルフ場経営会社とゴルフ倶楽部入会者との間の入会契約に基づいて生ずる入会者の権利義務の総体である。入会者の権利としては、優先的施設利用権、預託金返還請求権等があり、義務としては、会費支払義務等がある。これらが一体として譲渡の対象となり、一部の権利だけの譲渡や権利と義務とを別個に移転することなどは不可能である。

このようにゴルフ会員権の譲渡は、義務の移転を含み、かつ、継続的契約関係としてゴルフ場経営会社と会員との間の信頼関係が特に重要であるため、ゴルフ場経営会社の承認がなければゴルフ場会社には対抗できないものとされている。

そして、一般にこの承認は「名義書換」と呼ばれており、この承認があれば、確定的にゴルフ会員権は譲渡人から譲受人に移転し、譲受人とゴルフ場経営会社との間において、新たな法律関係が確定的に形成され、譲渡人の地位は消滅するというべきである。したがって、ゴルフ場経営会社である被告の承認により名義書換手続が完了した場合、債務の弁済がなされた場合と同様に、名義書換手続完了後の譲受人は、その後にゴルフ会員権の譲渡を受けた者や差押権者等に対し、旧会員たる譲渡人の権利が消滅していることを対抗できるものというべきである。

そうでなければ、名義書換料を支払って名義書換の承認を受け、現実にゴルフ場において会員としてプレーしているにもかかわらず、たまたま証拠証券としての会員証の名義変更がなされていないというだけで、第三者に対抗され、会員権を失うということになり、極めて不合理といわざるをえない。

2  原告の主張

(一) 会員権について、会則に従って、譲受人による名義書換請求がなされ、理事会の承認がなされた場合は、第三者は、譲渡人がいまだゴルフ会員権を有していると主張することは許されず、名義書換を受けた譲受人が排他的にその地位を取得することには異論はない。したがって、名義書換を完了した会員がその後に会員権を取得した第三者に対抗されて権利を喪失するというような問題はない。

(二) しかし、本件の場合、参加人に対し、名義書換がなされた事実はないから、本権会員権について、仮差押をした原告に対し、参加人が本件会員権を有することを主張することは許されない。すなわち、

(1) 一般に、ゴルフ会員権の譲渡には、ゴルフ倶楽部の理事会の承認が要求されることが多いが、これはゴルフ倶楽部に好ましくない分子が入ることを防止することにある。ゴルフ倶楽部が人格なき社団でなく、親睦的な任意団体にすぎず、その結果、理事会の承認は、ゴルフ場経営会社の承認権限を代行しているにすぎないとしても、ゴルフ場経営会社とは別個にゴルフ倶楽部にある程度の独自性を与え、その親睦的雰囲気及び一定の技術水準を維持するという観点から、倶楽部理事会に承認権限を代行させているのであり、会則上理事会の承認が必要とされているのに、被告代表取締役の承認で足りるとすることは、不合理である。

(2) ゴルフ場経営会社の承認は、これにより会員権の譲受人に排他的地位を与えるものであるから、その意思表示は明確になされることが必要である。本件の場合、承認に関する外形的行為としては、参加人の従業員辻野が会員証等の書類を被告に提出し、そのまま被告の金庫にしまわれたこと以外にはなく、会員証の裏面の代表取締役承認印欄にも承認印は押捺されておらず、会員証の名義の書換も行われておらず、譲渡人の退会処理もなされていない。つまり、被告において名義書換に通常要求されている行為が、外形的・形式的には一切なされていない。しかも、本件会員権は、個人会員権であり、法人である参加人に名義変更することなどありえない。したがって、本件譲渡について、理事会はもとより被告の代表取締役による承認もなされていないことは明らかである。なお、本件会員権等の買取資金を被告が貸し付けるについて、被告がこれを承認していたとしても、会員権譲渡の承認とは別個のことである。

(3) 原告が本件会員権を仮差押した直後の平成二年五月二〇日ころ、大西の代理人という某弁護士から原告代理人に電話があり、大西からさらに第三者に本件会員権を譲渡したが、名義書換をしていないのに仮差押を受け、会員権業者としての信用がなくなるから和解してほしいとの申出がなされた。一方、光造に対しても、大西が依頼した暴力団組員が、仮差押されることがわかりながら売ったのだろうと責任を追及し、代金の返還を強く要求し、光造は、もたもたして名義書換していなかったから大西の責任であると答え、両者の間に紛争が生じていた。このような経過からみても、参加人の主張する時期に名義書換手続がなされていたとは考えられない。

第三争点に対する判断

一ゴルフ会員権譲渡の対抗関係について

1  本件倶楽部は、ゴルフ場経営会社である被告会社が所有かつ経営するスポーツ振興カントリー倶楽部の施設及び提携する施設を利用してゴルフを通じ会員の健康増進と親睦を図る社交機関であり(会則第二条)、入会を希望する者は、会社の定める入会金を払い込み、会社がこの入会金を預かるが一定の事由のあるときは会員に返還されるものとされている(同第三、四条)

右各規定からすれば、本件倶楽部は、いわゆる預託金会員組織のゴルフクラブにあたり、会員は、被告会社所有のゴルフ場施設等を会則に従って優先的に利用できる権利を有し、年会費等を納入する義務を負担し(同第九条)、入会金等の預託金の返還請求権を有しているほか、倶楽部の諸規則を遵守し、倶楽部の名誉を保持する義務等が課せられている。本件会員権は、このような権利と義務を併せ持つ包括的な債権契約上の地位であると解される。

2  そして、本件会員権は、理事会の承認を得て譲渡できることとされているから、理事会の承認を受けないで当事者間のみで譲渡がなされても、理事会の承認がない限り、ゴルフ場経営会社である被告に対し譲渡の効力を主張できないことになる。したがって、譲受人は、その承認があるまでは、承認を条件に会員の地位を確定的に取得しうる期待権(条件付権利)を有するにすぎないが、名義変更をしないままでこの権利をさらに譲渡することもできると解される。

3  右のように預託金会員組織のゴルフ会員権は、優先的施設利用権と預託金返還請求権とともに会費納入等の義務を負担する地位であるが、会員権の譲渡は、このような複合した債権契約上の地位自体の譲渡であり、債権譲渡を含むことから、原則として、この譲渡を第三者に対抗するためには、指名債権譲渡に準じて、その対抗要件である確定日附のある証書による譲渡人からの通知又は同証書による債務者(ゴルフ場経営会社)の承諾を要するものというべきである(民法四六七条)。

4  ところで、一般に、会員権の譲渡は、理事会又はゴルフ場経営会社の承認を条件とする会員の地位の移転であり、その承認があった場合は、譲渡人は、当該ゴルフ倶楽部から退会し、会員としての地位を喪失する一方、譲受人は、新規入会者と同様、理事会等の審査を受けて入会を許可されるのであり、本件倶楽部会則六条も「入会金の返還又は譲渡した場合、本倶楽部の会員権は自然消滅する。」と規定している。譲渡承認があった場合の右のような一般的処理や右規定からすれば、会員権を譲り受けた者がその譲渡につき承認を得たときは、旧会員である譲渡人の地位は消滅し、譲受人との間に新たな契約関係が形成されると解する余地もある。しかし、会員権のうち預託金返還請求権の部分は、前主から承継したものであり、少なくともこの点においては、新たな契約関係というのは困難である。

5  しかし、会員権譲渡の実情を見ると、多くの場合、債権譲渡の対抗要件を備えるようなことはなく、会員権の譲渡とともに、名義書換に必要な書類を譲受人に交付し、譲受人において、ゴルフ場経営会社ないしゴルフクラブに名義変更の申請をし、承認が得られると名義書換料を支払い、譲渡人の不払会費等があればこれを清算し、会員名簿の記載が改められ、会員証の裏面に譲渡人及び譲受人の署名捺印がなされ、譲受人に会員証が交付されるなどの手続を経て、名義書換がなされ、それが完了することによって、新名義人が確定的に会員権を取得したものとして、ゴルフクラブから会員として認められ、会費等を支払って施設を利用することになる。

このように名義書換手続も完了している場合にも、指名債権譲渡の対抗要件を具備することが必要であるとすると、会員権が転々譲渡された後に、原始会員が既に譲渡した会員権を二重に譲渡して確定日附ある通知をしたり、原始会員の債権者が差し押さえたりすれば、既に名義書換手続も完了している譲渡のすべてが覆り、現名義人が権利を喪失する結果となる。

6 このような結果は、さほど困難なことでもない債権譲渡の対抗要件を具備することを怠った譲受人の責任であるとの考えもありえようが、名義書換により会員権を譲渡している現実の取引の実態からみて明らかに妥当性を欠くものといわざるをえない。

このような結果的な不当性と、会員権は預託金返還請求権以外にも多くの権利義務が一体となった地位であり、その本質は、当該会に所属する構成員に与えられた地位自体であると考えられることからすれば、会員権の譲渡につき、債権譲渡の対抗要件を備えていない場合でも、理事会又はゴルフ場経営会社が会員権の譲渡を承認して譲受人が当該クラブに入会すること許され、名義書換手続が完了した場合は、その譲受人が確定的に当該会員権を取得し、その反面において、譲渡人の会員としての地位は、預託金返還請求権の部分をも含めて消滅すると解するのが相当である。したがって、会員権譲渡が承認されて旧会員の地位が消滅した後に第三者がこれを二重に譲り受けたり、差し押さえることはできないというべきである。

二本件会員権譲渡の承認の有無について

1  そこで、本件会員権の譲渡について、名義書換手続が完了しているか否かについて検討するに、証拠(〈書証番号略〉、証人西田剛)によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告は、会員権の譲渡が行われ、名義書換の申し出があると、先ず譲受人から入会資格審査申請書(譲受人の住所・氏名・生年月日・職業・家族構成・在籍している他クラブの名称・会員の推薦人の氏名を記載したもの)、住民票、他クラブの在籍証明(本件倶楽部は、他クラブに在籍していないと入会できないことになっている)、誓約書を提出させる。その後、会則では理事会により審査することになっているが、理事は名士で忙しく、スムースに手続を行うために代表理事である被告会社の代表取締役のみで審査することで、理事も暗黙のうちに了解しており、代表理事の承認があると、その後に資格審査承認議事録に理事二名の判をもらうこととされている。

(二) このような資格審査が終了すると、次に譲受人に名義書換申請書、会員証、携帯会員証、旧名義人の印鑑証明書を提出させ、会員証の裏面に譲渡人と譲受人の署名(記名)捺印及び代表取締役の承認印が押され、名義書換料が入金されるとその日を譲渡年月日として会員証に記載するが、会員証自体の作成・交付は名義書換申請があってから一、二か月先になるため、名義書換料が入金された時点で譲受人を正式の会員として扱うこととしている。なお、譲渡人には、退会届を提出させていないが、当然に会員資格は消滅するものとされている。

(三) ところで、被告と参加人は、被告が参加人の資本金の五〇パーセントを出捐し、参加人の代表取締役を被告の代表取締役副社長が兼務しているほか、ほとんどの役員が被告会社の役員を兼ねており、いわゆる親子会社の関係にあり、参加人の主たる業務は、被告会社と関連会社の経営するゴルフ場の会員権価格が下落するのを防止するために、市場に出回っている会員権を取得し、価格の推移を見計らいながら、再売買をしたり、会員数を減少させて、会員権価格を維持する等の目的で被告に譲渡して退会処理をしたりすることにあり、このような目的で被告経営のゴルフクラブの会員権を取得することにつき、被告と参加人とが協議して実行し、その取得資金は、被告が参加人に融資してきており、被告の代表取締役は、右融資の承認手続の過程で、参加人が購入する会員権の数量等を把握している。

(四) そして、このような目的で会員権を購入する場合は、被告代表取締役が購入予定の会員権に相当する資金の融資の決済をするだけで、購入後は、参加人の担当者から被告の担当者に会員証や譲渡人の印鑑証明書等、会員権を譲り受けた際に交付された関係書類が提出されて、両担当者が共同で管理している金庫に収納されるだけで、資格審査のための書類や名義書換申請書等も提出されることもなく、理事二名の判をもらうこともなく、名義書換料の納入等もなされず、会員台帳やコンピューターに登録された会員名簿も書き換えられず(通常、名義書換が行われた場合は書き換えられている)、その他名義書換に必要な手続は何ら行われていない。

2  以上のような経過に加えて、本件会員権は、個人正会員権であり、法人である参加人自身が取得することはありえない(この点について、西田証人は、個人正会員権を記名式一名の法人正会員権とすることもあると証言しているが、会則上、法人正会員は、二名以上団体で加入した法人又は団体名を使うものと規定されており、西田の述べるような会員種別はなく、右証言は採用できない)ことからすれば、参加人による本件会員権の取得は、本件倶楽部の会員権価格を調節するために、被告と協議の上で市場に出回っていた本件倶楽部の会員権を取得し、将来の会員権価格の動向を見ながら、第三者に転売したり、退会処分をして会員権自体を消滅させる目的で被告に譲渡するため、一時的に保有しているにすぎず、参加人自身が本件倶楽部の会員となるために取得したものではないと認めるのが相当である。

3  被告や参加人は、本件会員権は、事前に被告の了解を受けて取得した会員権であり、会員証等の書類一式が参加人から被告に引き渡されたことをもって、譲渡承認があり、名義書換料は免除されていたから、右書類の引渡をもって名義書換手続は完了していると主張するが、個人正会員である光造から法人である参加人に名義書換を行うことはできず、また、参加人の取得目的からしても、自らに名義書換を行う必要性もなく、将来、転売した場合に、その取得者に対して名義書換手続を行えば足りるのであって、参加人も被告も将来の処理のために会員証等の必要書類を保管していたに過ぎないというのが実態であるというべきである。

4  先に述べたように、会員権の譲渡を理事会等が承認することによって譲受人が確定的に会員権を取得し、その結果旧会員の地位が消滅すると解するのは、名義書換手続が完了している譲受人の地位を保護しようとするのであるから、名義書換手続は、旧会員の地位を消滅させ、譲受人を新たな会員として承認するという実質を有するものでなければならないというべきであって、単に会員権の譲渡が行われたことを被告が承認していたにすぎない場合まで、名義書換が完了していたのと同視するとすれば、確定日附によらない承諾に対抗力を認めるのと同じ結果になり、その点でも妥当性を欠くものといわざるをえない。

したがって、前記のような目的で参加人が本件会員権を取得することを被告が承認していただけで、名義書換手続がまったくなされていない本件の場合、これをもって、名義書換のための承認があったとすることはできない。

三以上によれば、参加人は、本件会員権の譲渡について、本件倶楽部理事会又は被告会社の承認を得てその地位を確定的に取得したとはいえないところ、原告の申立にかかる仮差押決定が被告に送達される以前に光造から被告に対し確定日附のある譲渡通知をしたとか、被告から確定日附ある承諾を得たとの主張も立証もないから、参加人は、本件会員権の譲受を原告に対抗することはできないといわざるをえない。

そうすると、本件会員権は、原告との関係でいえば、いまだ光造がこれを有していることになるから、原告の被告に対する請求は理由があるが、参加人が本件会員権を有することの確認を求める参加人の請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官井垣敏生)

別紙会員権目録

名称 スポーツ振興カントリー倶楽部

(旧名称 山の原ゴルフ倶楽部)

所在地

兵庫県川西市山の原字下恋里一二

会員番号 〇一八四

会員名 光造博

預託金額 五〇万円

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